第四章 ~古の魔人~ 8

第四章 ~古の魔人~ 8
 静寂の中に響くのは、セルフィーの息遣いと非常灯の振動音、再び二つになった。  朦朧とする意識の中で必死にパネル操作をしていたセルフィーは、力尽きたようにぐったりと床にずり落ちる。  ゆっくりと回転を続けていたクリスタル様の装置は、暗闇の中で不気味に反芻していた不協和音が止むのに合わせてその動きを停止させ、鈍く放たれていた光も完全に消え去った。  一体何が、どうなったのか。音さえ響かぬここからでは、戦況の変化を窺い知ることなど出来ない。停止させたのが電波発生の制御装置であるという確証など何もないが、確認に戻ろうにも、必死で動かし続け、負傷した足はまるで言うことを聞かない。呼吸は未だに高く、荒い吐息が流れ出る度に残り僅かな体力がすり減っていく。今のセルフィーには、暗転しそうになる意識を必死で繋ぎ止めることしか出来なかった。  不意に、部屋の外、暗闇の奥の方から再び何か第三の音が混じり始めたことに気付いた。響く音は二つ。奏でるリズムは一緒だが、音質が微妙に異なる。それが次第に大きく、はっきりと響いてくる。どうやらそれは徐々に近付いて来る二つの足音のようだった。セルフィーの心音が再び高まり始める。二つということは、近付いてくるのは二人の人物。戦いに決着を付けたナノ・プラントの二人が、セルフィーのことを追い掛けて来たのかも知れないのだ。 「セルフィー!」  しかし、緊張感が頂点に達する前に響いたのは、聞き覚えのある女性の声だった。  動力室の扉の前に佇んでいたのは、ラグナとステラ。二人とも満身創痍と言っていいくらい全身傷だらけだったが、どうやら無事だったらしい。二人がここにやって来たということは、おそらくあのナノ・プラントの二人は敗れたのだ。制御装置の停止という重大な任務は、どうにか成功したようだ。ようやくセルフィーの中で高まり続けていた緊張感が解放される。  意識が途切れる寸前のセルフィーの体を、ステラがしっかりと抱き止めた。 「大丈夫、みんな無事よ。……よくやってくれたわ。全部あんたのおかげよ」
ユー