台風

台風
 台風のようになりたかった。 「誰かの前でたくさん泣きたい」 「みんなに新しい風を吹かせたい」 「安定した将来の進路を手に入れたい」  僕はそんな主人公のような姿に憧れた。しかし、人生はそんなに甘くない。現在時刻は6時を迎えた。今、僕は外の風に吹かれている。少し肌寒い感覚が手足を麻痺させる。冷ややかな風と共に僕の手は赤くなっていた。目をゆっくり閉じて深呼吸。怖いくらいに僕の心臓は落ち着いている。 「お前いつからそんな奴になったんだよ」 僕とこいつは大学からの仲間で、何度も苦楽を共にしてきた。ただ、そんな毎日は続くことがなかった。こいつの家族が死んだあの日。それが境目だった。
維千 / ichi
維千 / ichi
お時間のある時に貴方を1000字の世界へ。 ご高覧いただきありがとうございます。 【人狼ゲーム】11月14日より連載中