結婚詐欺師

結婚詐欺師
「ただいまぁ」 戸が開く音がする。母が帰ってきた。 「お帰りなさい。それで、また知らない男でも連れ込んだの」 「違うわよ、この方は今日バーであった大和さん」 紹介された大和さんと呼ばれた男性は、自分の方を見て気まずそうに苦笑いをする。その仕草にまた苛立ちを覚える。 「母さん、また結婚詐欺師に狙われてる……」 小声で呟いたのが聞こえてしまったのか、母はボソボソと文句を言いながら男性を連れて2階へと上がっていった。  自分と母がまともに会話をしなくなったのは3年前の夏、再婚相手の男性を自分に紹介してきたときからだった。母はそのとき真実の愛がどうとか言い放って、幸せそうな表情をしていた。はじめの頃は自分も目が節穴だった。その男性はとある商社で働いていると言っており、誠実そうに見え、まるで嘘などついていないようであった。母を幸せにしてくれる良い再婚相手だと思った。そう信じていた。  歯車が狂い出したのはその半年後。母はその日、次のデートで着る服を見に行っていた。自分も母について行き、一緒に服を選ぶ予定だった。しかしそこで見たものは、服ではなく再婚予定のはずの男性なのであった。若い女と腕を組んで、楽しそうに一つのジュースを飲んでいた。向こうが母の存在に気付いたとき、もうすでに母は涙を浮かべ、怒りをあらわにしていた。男は母に向かって、貰った金は返さない、もう俺に関わるなと言い放ち、姿を消した。本当に、結婚式のために用意していたお金は跡形もなく消えていた。母は叫び狂った。毎日涙を流していた。  
維千 / ichi
維千 / ichi
お時間のある時に貴方を1000字の世界へ。 ご高覧いただきありがとうございます。 【人狼ゲーム】11月14日より連載中