This Land is Your Land

「間もなく目標ポイントに到達。攻撃体制に入ります」  息詰まるような狭いスペースの中で、おれのすぐ目の前、背中を向け座っている男の言葉がヘッドホン越しに聞こえてくる。 「リラックスしていけよ、バージン・ショットだからな」  下品な笑い声とともに、管制からの無線が聞こえた。  おれもつられて笑った。  ついこの間、おれも前座席で操縦桿を握りしめ、はやる気持ちを抑えながら雲の上を飛んでいた。はじめての攻撃演習だ。前夜は興奮してなかなか眠れなかったのを憶えてる。糞まみれのサバイバル訓練だって、これがあるから出来るようなもんだ。  グラマン Fー14A トムキャット。  ベトナム戦争後からもう三十年近く主力として活躍してきたという Ms. Tomcat はおれたちのアイドルだ。早く順番が廻ってこないかと誰もが待ってる Pussy Doll みたいなもんで、今日そのお相手ができたラッキーな人間が、おれの前に座っている男。こいつの前に幸運を手にした奴がおれというわけ。規則だと今おれの席に座っているのは教官と呼ばれる奴らだが、慣例で前回のパイロットがやることになっている。血の気の多い奴らを飼い馴らしておくには、適当に暴れさせておくのが一番ということなんだろう。  こいつは空母などの戦艦を護衛する目的で作られた二人乗り・ターボファン双発の戦闘機だ。20㎜機関砲に加え、中距離AIMー7スパロー、短距離AIMー9サイドワインダーを両翼に1門づつ、長距離AIMー54フェニックスを下部に4門、装備する。量産型としてはオーソドックスな戦闘機だが、もちろん、核装備もできる。おれのような下っ端じゃ詳しいことは教えてもらえないし、教えてもらったところで頭の悪いおれじゃ理解できないだろうが、機関砲での徹甲焼夷弾のような比較的チープなものから、最新の小型核弾頭を備えたミサイルまで積めるらしい。もっとも核なんて言葉に敏感な人間のいるところじゃ演習などできるはずはなく、戦争でも起きないかぎり関係ないことだ。 「いよいよなんで、緊張してきましたよ。小さい頃から映画とかで見てて、いつかやりたいなってずっと思ってたんです」
べるきす
文芸短編小説をメインにアップしております。 なにかを感じ取っていただける作品を目指して^_^ もしかしたら対象年齢少し高めで、ライトではないかと思いますが、ご興味をお持ちいただけましたら幸いです☺️ 名刺がわりの作品としては「変愛」を。 もしご興味いただけましたら、少々長いですが「This Land is Your Land」を読んでいただければ幸いです。