風物死

風物死
奈緒 7月の昼下がり。そろそろセミが鳴き始めると言う私に奈緒は鬱陶しそうに耳を塞いだ。「セミなんか嫌い。」「なんでよ、夏の風物詩じゃん。」「いやいや、うるさいだけだよ。しかもアイツら、死んでるとおもってちょっとつっついたら...」せっかくの晴天なのに奈緒の顔は曇っていた。 水道道、公園、コンビニ、幼稚園、クラスメイトのおばあちゃんが経営している小さな文房具屋。いつもの道をぼてぼてと私たちは歩いた。 歩いている間はほとんど会話は無かった。ひたすら歩いた。背中が暑くてしょうがない。上からは汗がポタポタと滴って絶妙な気持ち悪さを沸騰させてくる。奈緒はぐったりと私の背に体を任せている。病院まであと5分弱。私は早歩きで全体力を使おうとしていた。そのとき、 「死んでると思って、ちょっとつっついたら、 死んでたの」吐息混じりの奈緒の声が耳元から聞こえたので、汗が頬を伝って口に入ってくる瞬間を狙って私はゴクリと自分の汗を飲んだ。 塩分が足りていなかった。私も、奈緒も。
郷田サリー
郷田サリー
好きなものを好きなように飾る