辛っ
登る湯気さえ赤になりそうなほど赤に塗れた器が活気があるのかないのか微妙な声色と共に目の前に運ばれた。
「ご注文の品以上でお揃いでしょうかー」
「ぁ、はい、ありがとうございます」
条件反射の感謝と笑う顔、引き攣る内面。
少しの規則的さを持った傾きを見せる箸入れの中の箸を適当に2本手に取り、その動作のついでに手を合わせた。この動作も律儀にしてしまうのもなんだかなぁなんて。
箸をスープにグッと入れ薬味の下の麺を探し持ち上げる。スープの赤が少し染みた麺にさらにラー油の艶ある赤がまとわりつく。上がる湯気がまだ出迎えていない喉を刺激して涎が出る。熱さを冷ます為に少し長めに息を吹きかけた後、勢い付けのように短く息をし出迎えた麺。唇がじんわり熱くひりつく。刺してくる辛味は喉に。痛みか辛みか、涙が溢れてくる。
「悩みなんてなさそうでお前はいいよな」
鼻奥がつんとなる台詞。それでも返す言葉を吐く俺の表情は悩みなんてなさそうなヘラヘラ顔。怒ったところで場違い、空気読めてないノリ悪い奴。だったらその場凌いでもいいだろう。笑って流せば、その場の空気も相手の機嫌も俺の評価も悪くならないから。ただ少し息苦しいだけ。
「あっつ」
ネクタイ緩めてきっちり締めていた第一ボタンを外した。刺激を噛み飲み込んだ口内に、辛味よりも先に熱が残り追って体から汗が噴き出る。そして喉に迫り上がる辛味。しかし水で流し込むには惜しい刺激。薬味の白髪ネギと麺を絡ませる為に二度ほど混ぜ、また一段と上がる湯気ごと麺を食う。白髪ネギのつんとくる独特の辛味がラー油の辛味をさらに引き立たせ、辛味の奥の旨味に変える。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2023/4/10 15:48
最終編集日時: 2023/4/11 2:25
犬狸
夢を見てみようかなと思った