二文字と五文字の狭間で

「ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ」  いきなり「ボ」を連発してしまった……。いつものように学校が終わって帰ろうとした時に由美子ちゃんに呼び出されて来てみたら、突然「つき合ってください」などと言われてしまったもんだから、動揺を通り越して自分を指さしながら「ボク?」の「ク」が出なくなってしまったのだ。いやいや、言ったつもりになってるだけで、実際には声には出ていなかったのかもしれない。  落ち着け、落ち着け。今の「ボ」の字は261文字。うん、大丈夫。ボクは言葉に鋭敏なのだ。誰かが喋った時に、何文字言ったかをすぐに数えることが出来るという最強の必殺技を持っている。どうだ、すごいだろう。大丈夫、ボクは冷静だ。  由美子ちゃんはクラスカーストの上位で、男子にも人気がある。アイドルなんて実際に見たことないからわからないけど、少なくとも地下アイドルなんていうわけのわからないものにはヒケを取るでもないと思うし、第一、アイドルなんて裏の皮は酷いとかいう話だってある。しかもこっちはカーストの底辺とはいわないまでも、そこそこそれなりの位置でしかない。生徒会長でもないしどこかの御曹司でもなけりゃスポーツマンでもない。性格も含めて平々凡々。おまけにこのまま歳を取れば、どんどん底辺に近づいてしまうに決まっているんだ。 ……あ、いや、そんなこと誰がわかるんだ? 勉強のできるヤツ、金持ってる家のヤツ、スポーツの出来るヤツとかいるけど、それはそれとして、そもそもクラスカーストなんて存在していないじゃないか。あんなのはマスコミが面白おかしく興味をひきたいがためにデッチ上げた作り話。うむぅ、実際にはあるのかもしれないけど、そんなものは遠い世界の出来事で少なくともボクの周りには存在してない。今はともかくだけど、この先どうなるかなんて、ボクだってわからないじゃないか。そうだ、もっともっと未来の可能性は広いはずなんだ。ボクの将来はこの先、海のように広い! ぐうううう……のおおお! さすがに自分のウツワくらいきちんと認識しなきゃいけないだろう。でも、海まではいかないかも知れないが湖くらいはあるはずだ。……しかしなんで今月のお題は湖なんだ。そういうツッコミを入れすぎてしまうとボクの立場が危うくなりそうなのでこの位でやめておくが、あれ? そもそもお題ってなんのことだ。まぁ、いい。ともかく、ウミとミズウミって二文字と五文字の違いだけなのに、なんでこんなに印象が違うんだろうか。あ……ぐわっ! ミズウミは四文字ではないか! ボクの必殺技がこんな簡単なところでミスしてしまうなんて余程動揺しているとみえる。ぐわああ、そういえば冒頭の「ボ」も実は262文字だった! なんたることだ! 由美子ちゃんに9文字を言われただけなのに、ボクの必殺技が役立たずになるようではこの先思いやられるではないか!  こんな調子じゃダメだ。もし由美子ちゃんと付き合うことになったら、由美子ちゃんが笑うたび、泣くたび、傷つけるたびにボクは動揺して、やっぱり必殺技を失敗してしまうに違いない。「ありがとう」なんて、何万文字にも感じてしまうかも知れないじゃないか。す……す……す……好き、なんて言われたら、うわぁ、絶対ダメだ。ボクにはこれしか必殺技がないというのに、それでいいのか? 嫌われちゃうぞ! でも、由美子ちゃんの笑った顔って、とんでもなく可愛いんだよな。ぬうう、いやいや、すでにもうダメかもしれない……。こんなことじゃ、もしうまく行っても、「そんな人だとは思わなかった」ってすぐにフラれっちゃう!  よしっ、ここまで読んでくれたのなら、前半の掴みはイケたのだろう。うん。よしよし。しかし小説でも序盤でなにかオオッと感じても、これからって時に終わっちゃうものが多いんだよな。そこからの掘り下げが大切なのだ。大喜利ならそれでいいんだろうけども、小説はそれじゃいけない。ましてや「ボ」を連ねただけの出だしにヒケを取るとは言わずもがな……って、ボクは一体誰に向かって喋ってるんだろう。とにかく冷静になるんだ。落ち着け、落ち着け!  こういう時は知識をゆっくりと整理するに限る。うむ。湖って実は、海にも負けず劣らず広いことをボクは知っているぞ。世界最大の湖なんてのは知らないけども、日本は霞ケ浦ってのが最大で、子供の頃に行った時は向こう岸も見えなかったくらいなんだぜ。なに? 日本最大は琵琶湖だって? 仕方ないじゃないか、行ったことないんだから。まぁ、その霞ケ浦より大きいのがあるってことは、それはもうバカでかいってことなんだ。よしよし、ボクは冷静だぞ。  考えろ、考えろ、考えろ! もしここで「はい」という二文字を言ったらどうなるんだろう。ボクと由美子ちゃんが付き合って、その先は……。
べるきす
文芸短編小説をメインにアップしております。 なにかを感じ取っていただける作品を目指して^_^ もしかしたら対象年齢少し高めで、ライトではないかと思いますが、ご興味をお持ちいただけましたら幸いです☺️ 名刺がわりの作品としては「変愛」を。 もしご興味いただけましたら、少々長いですが「This Land is Your Land」を読んでいただければ幸いです。