人生60年時代

人生60年時代
もし、人間の寿命が60年と決まっていたとしたら 例外なく、60年で死ぬとするならば、あなたは何を幸せとして生きていきますか その幸せはあなたにとっての幸せと言い切れるんでしょうか  「私ね、将来お嫁さんになる。子供は2人いてね、イケメンのダンナさんと、ママとパパで暮らすの」  そう言った私の頭を撫でながら母は、「賢いね、楓は親孝行者だわ」と柔らかく笑ったのを覚えている。窓からアネモネがみえたので春頃のことだっただろうか。  何で急にこんなこと思い出したんだろう。アラームを止めながらぼんやりと考える。ああきっと昨日のことのせいだ。夏休みの課題として出された作文、テーマは「将来について」。書いたはいいが、私は提出を躊躇っていた。笹原はその作文を勝手に取り上げたかと思えば、大声で読み上げ、私はクラスの笑い者にされたのだ。悲しさと恥ずかしさと怒りが込み上げ、家に帰ってすぐ作文は破り捨てたのだった。 「昔はそんなことする奴じゃなかったのにな」  ひとりごちながら着替える。朝といえどもまだまだ暑い。
雁木ひとみ
雁木ひとみ
全てフィクションです