淡雪

 いつもと同じベージュ色のコートと黒い革靴を身につけて彼女はそこに現れる。竹田聡太郎(たけだ そうたろう)もマフラーを巻き直し、曲がったネクタイを直して彼女の元へ歩み寄る。 「聡太郎さん、こんばんは」  相沢佳奈美(あいざわ かなみ)の明るい挨拶に、聡太郎もこんばんは、と返した。 「暖かそうですね、そのマフラー」  佳奈美は聡太郎の赤いマフラーを指した。 「寒いでしょう、貸しましょうか?」 「今は大丈夫ですよ」  佳奈美は黒く長い、艶のある美しい髪を靡かせて聡太郎を導くように歩き始めた。いつも主導権を握られるのは聡太郎だった。  しばらく雑談を交わしながら歩いた。今日は酷く寒い、最近読んだ本は何か、など他愛もない質疑応答や世間話を繰り返した。  夜二十三時の横浜は騒がしい。信号機はカッコー、カッコーと音を鳴らしながら色を変え、人々の会話や喧騒もうるさいほど聞こえてくる。
山田ヤマダ