【BL】夏の一幕

 夏休みも中盤に入ってきた8月中旬。  休みの思い出は今のところ、夏期講習と家の手伝いしかない。去年も似たようなものであったし、中学の頃は部活一辺倒であったことを思えば、まだマシなのかもしれない。どちらがより青春していたか、と問われると頭を悩ませるところではあるが、輝人の夏休みはいつもこんなものである。なんともしょっぱいものであった。  だが、今年はそんなしょっぱい夏休みにも、終わりを告げられそうである。 「おはようございまーす」 「おー、はよーっす。なんや快斗、今日は早かったな。来るなら午後からやと思っとったわ」 「いやぁ。昨日、来るときにめっちゃ暑かったから……。炎天下の中を歩くのは、もう勘弁かな」  カランと来店を告げるベルを鳴らして入店してきたのは、黒髪に深い海のような瞳の青年、快斗だった。輝人のクラスメイトでもある彼は、いつものように黒マスクを付けている。  夏場にマスクとは蒸れて過ごせたものではなかろうか、と輝人は毎日思うのだが、今のところ学校内外含め、快斗が黒マスクを外したところはほとんど見ていない。これが俺のトレードマーク、とでも言わんばかりの頑なさだ。そんな快斗の謎のこだわりに、輝人は内心子どもっぽいなと思っていた。夏場くらい、マスクを付けるのをやめればいいのに。
故食
故食
恋愛ものメインでBL/GL/NLなんでも書きます。でも多分大体BL。気が向いた時にポンと置いていきます。普段はpixivとかで二次創作書いてます。