同じ物語を書いたなら

多分、この場所がこの空間の中で立てる一番高い位置だ。座標上で言うZ軸で言えば違うだろうが、僕が言いたいのはそういうことでは無い。僕が真に言いたいのは、今この場でトップなのが間違いなく僕だと言うことだ。 僕は一位になった。もっと正しく言うならば、僕の物語が一位になったんだ。これ以上に喜ばしいことは無いだろう。数々のライバルを押し退けて、この僕が勝ったんだ。全ての注目は僕の作品に集まって、皆が僕を認め、数々の人の記憶には作品と名前が残って、多くの人が僕の作品を手に取って… 考えただけでも、それは夢見る光景だと思う。でも僕が一番感じているのは、喜びでも、達成感でも、優越感でも、どれでもない。 今僕が思っていることは、上手く言葉に出来ないけれど。ただ一つだけ言えること。それは、この瞬間、僕は涙を流していたってことだ。 僕は特別なんかじゃない。それは僕がずっと幼くて、多分砂場で砂まみれになっている様な歳の頃から分かっていたことだ。何をやったって平凡で、誰から見たって一般人を地で行く様な人間だったと思う。でも僕には、一つだけ他の人には無いものがあった。彼と友であったのは、多分世界で僕だけだろうから。 幼い頃、砂場で遊んでいた僕がたまたま彼を見つけた。彼は同い年だったけれど、他の子や僕のように駆けずり回って遊んではいなかった。その姿は印象的で、今でも鮮明に思い返せる。彼は木の上に座っていて、そして本を開いていた。風に木の葉が揺らぎ、舞い、そしてその中に静かに佇む彼。風でかかった前髪を静かに避ける姿は、到底僕と同じ子供だとは思えなくて、気が付いたら僕は彼に声をかけていた。それが、僕と彼の出会い。 彼は本が好きだった。土埃に塗れた手を見て彼は「本に触れないでくれ」なんて言ったけれど、決して僕を拒みはしなかった。いつの間にか僕達はずっと一緒に居て、いつも僕が話しかけて、それに彼が答えている。その繰り返しだったけれど、何よりもそれが嬉しくて、楽しい時間だった。彼はいつか本を書きたいと言って、その度にきっと僕達はずっと一緒で、いつか僕は君の本を読むんだと何度も彼に投げかけた。 その度に彼は、少し寂しそうな顔をしていたことに平凡な僕は気が付かなかったけれど、彼も僕に何も言わなかった。 いつの間にか僕達は成長していて、かつて土に塗れた手にはペンが握られ、彼の居場所は木の上から病院のベッドへと変わっていた。少しばかり成長した僕は、流石に彼の寂しい表情を分かっていた。多分、成長していなくても気が付いただろうけれど。 僕は毎日のように彼のもとへと通い続け、話をした。彼は頭が良かったから僕よりも勉強が出来て、学校に通っている僕の方が教えてもらう立場だった。そういえばいつしか彼は本を読まなくなって、僕によく勉強を教えるようになっていたっけ。きっと、気が付いていたんだろう。
じゃらねっこ
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ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。 毎日投稿始めます。