頭の無い虫
20代後半を迎えてから、僕は随分と老け込んだみたいだ。顔色は少し浅黒くなり、ほうれい線の皺が以前よりもずっと深くなった。学生時代に陸上で鍛えていた肉体の恩恵も少しずつ損なわれ、ビルの階段を3階まで上がるだけで息が切れるようになったし、腹囲も気になるようになった。樹海のように生えていた頭髪も頭上を公衆便所の光で照らされるとうっすらと地肌が見えるぐらいには薄くなり、幼い頃から通っている床屋の店長に「仲間入り」の認定をされるようになった。
生きていれば誰もが通過するであろう「老い」がいよいよ言葉ではなく実体を持って僕に襲いかかる。その事実は僕を幾分かナイーブにさせた。
僕は今年で27歳になる。同じアラサーでも、26歳と27歳の間には何か大きな虚があるように感じている。27歳にもなれば誰もが地に足を着き、自分と社会の距離感、いわゆる付き合い方を正しいものさしを持って測りながら生きているに違いない。きっとそういう人間は、心も肉体もいつまでも若々しくあり続けられるのだろう。
僕はどうだ。まるで頭の無い昆虫のように本能のまま地を這い回っているみたいだ。
あるいは僕の頭上にはいつも巨大な蚊の形をした異形が飛んでいて、その針のような触手で脳を吸われ続けているのかも知れない。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2023/10/18 16:09
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
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