【雨が降れば本番の合図】

 ぽつりと雨粒が額に当たった。空を見上げると雨粒が、キラキラと光りながら降り注ぐ。  雨粒が当たる度に、体の奥底から喜びが込み上げてきた。思わず笑みが溢れる。両手を広げ、その場でくるくると回った。  そして、歌いたくてうずうずしてくる。――大きな声で歌いたい。この誰もいない雨の中、1人のコンサート。  目を瞑り、息を大きく吸い込み、そして、歌い始める。雨の音が丁度良いBGM。歌えば歌うほど、楽しくなってくる。  体はずぶ濡れなのに、なぜか軽くなってきた。まるで自分の背中に羽が生えたかのように思う。  世界がキラキラと輝いて見える。手を前に伸ばし、そして、天へと――  全力で歌ったから、息が上がった。ふと、人の気配を感じ、前を見ると赤い傘をさした女の子がワタシを見つめていた。  ――マズイっ‼︎
時雨 天