居なくなった恋人に似た人に出会った話

 突然あの子が居なくなって半年は経っただろうか。実際はおそらく二ヶ月くらいだと思う。未だに度々寝付けず、こうして夜の路地裏を散歩している。まだ人がいる居酒屋の灯りを見ると気が紛れる事を知って以来、癖になってしまったようだ。  お酒は嗜む程度の僕には無縁であるからこそ、その灯りを遠くから見れるのだろうか。そこに居たことがないから、思い出すものがないからだろうか。脳裏のあの子から離れるには都合がいい。  何の気なしにコンビニに入る。特になにを買うわけでもなく、キャッチーな単語が並ぶ雑誌棚を横目になぞって、奥の冷蔵庫まで足を進める。いつもなら、そうする。  灰皿があるくらいの位置に、あの子によく似た人が立っている。何の気なしに入ったはずなのに、もやが音もなくはれていく。  もやの大きな動きに動かされて、あの子が好きだった微糖のカフェオレを買って外に出た。気が早って会計をすませた記憶がない。電子マネーの決済音が聞こえたから、おそらく会計はすんでいるはずだ。  よく分からないまま、もやの大きな動きに動かされるまま、灰皿がある方を見る。やはりあの子にしか見えない。コンビニの灯りが逆光になって顔がよく見えないけど、本当によく似ている。 「あ、あの」  あきらかに不審な声のかけ方しかできていないような気がする。しかしすでに発声してしまったから、戻るにも戻れない。  顔を上げたその人は、泣き腫らした目をしている。疲れた顔で、ぼんやりと僕の顔を確認するように見ている。
辻村仁希
辻村仁希
同名義のnoteに上げた詩などを基本に投稿します。