悪夢とくろねこ

悪夢とくろねこ
柔らかい月の光が僕を穏やかに照らしている。 手が届きそうなくらいに大きくて、僕を溶かしてしまいそうなくらいに暖かな光だ。僕がどうしても欲しくて仕方なかった暖かさの。 それをぼんやりと眺めていたら突然、ごぽりと音を立てて月が大きく歪み崩れていく。 どうして、 問う声は響かず、ただ水泡がごぽごぽと溢れ続けて視界が揺らぐのを見てようやく、僕は自身が水中にいることに気付く。 月が揺れる、光が揺れる、伸ばした僕の両手が冷たく揺れる。 まるで黒猫の瞳のようにまんまるな月がどんどんと遠ざかっていく。……いや、僕が沈んでいっているのだ。 ついに最後の空気が僕の肺から出て行って、大きな水泡が天に向かって登っていく、それに邪魔されて月も見えなくなった。
行木しずく
行木しずく
薄暗い話と頭の悪い話を書きます。