或る猛暑日の残骸

 今朝無惨な形で横たわっていたセミの死骸が、夕方帰ってみると跡形もなく消えていた。一体いつ無くなったのだろう。横断歩道を渡ったとき、ちらりと見えた潰れた半身がまだ頭の中に残っている。 「すみません、ちょっといいですか」  引いていた自転車を止め、つい呆然と眺めていたら後ろから声を掛けられた。振り返った先にいたのは、首にタオルを巻いた清掃服姿の小柄な男性。季節に似合わない茶色の長袖と黒の長ズボンを履いて、帽子を目深に被っていた。 「なんでしょうか?」 「私、先ほどここを掃除していた者です。蝉の死骸があったのですが、片方の羽根を知りませんか?」 「羽根?いや、知りません」
ろくを
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