ラストノート

ラストノート
「ねぇ、ルイーザって臭くない?」  後ろの席から、数人の女子たちがクスクスと笑う声が聞こえた。  窓はどれも閉めきられていて、黄色く色づき始めた木々をぼんやりと映している。うちの大学の中でも特に狭いこの教室は、さっきからルイーザの香水の香りで満ちていた。  ほのかは、前の方に座るカラフルなカーディガンの背中を見た。  臭い、とまでは思わない。でも正直なところ、強いとは思った。日本ではあまり出会うことのない独特な香り。行ったこともない外国の森の中に、見たこともない緑が生い茂るような、そんな力強さを感じた。普段、石けんの香りや柑橘の爽やかな香りを好むほのかにとっては、まったく馴染みがない香りだ。 「先生、質問あります」  授業の途中、ルイーザが手を上げた。  濃い茶色のウェーブヘアに、健康的な小麦色の肌。体型は日本人と変わらないような小柄さだが、華やかな色使いの服をこんなふうに着こなせる人はそう多くないだろう。  南ヨーロッパの出身だという彼女は、日本語で簡単な会話はできるものの、流暢というわけではない。今も、ところどころカタコトになりながら、一生懸命に分からない部分をたずねている。  その様子を、ほのかを含めた日本人の学生は戸惑いながら見つめた。もし質問があるなら、授業が終わってから聞きにいく。今まで、それが当たり前だと思っていた。
あまもよい
あまもよい
 真夜中の通知ごめんなさい。