珈琲の香り

珈琲の香り
  珈琲は、冷めない内に飲むのが礼儀だろう。 そう言いながらも猫舌な僕は、チーズケーキとセットにして頼むのが休日の楽しみである。  先日、行きつけのお店に入ると1番人気の珈琲が売り切れで、本日のオススメを注文した。ブラジルのサントスと言う珈琲なんだが、香ばしい苦味と豊かなコクが売りらしい。僕には、少し早かった味わいな気がするが店内に流れてるクラシックを聴きながら一口味わうとこの味は前にも飲んだことがあるとふっと気づいた。  あれは、三年前の冬。コンビニの外で友人と缶コーヒーとタバコを加えながら、ぼーっとしてるといきなり友人が『 周りは見れば、カップルばっかりで俺ら何してるんだろうな。負け犬みたいに····』と呟いた。僕は笑いながら間違えないと言いながらも目の前を通り過ぎて行く女性の香りがCHANELのチャンス オー タンドゥル オードトワレ【恋人の贈り物⠀】だと気づいて、尚更苦味が増した。髪を靡かせて歩いて去って行く様子を見ながらきっと、彼氏から貰った香水をつけてこの後デートするのだろうと思うと何故か妬むと言うよりすごく幸せなんだろうなと豊かな気持ちになる。缶コーヒーを一口飲もうとすると冷めていて今年の冬も友人と二人で過ごす嬉しい様な寂しい様なそんな気持ちになり煙草に火を付けてゆっくり煙を吐いて缶コーヒーを飲み干した。  味わう事より、目の前の景色や光景に気を取られ、味わうべき味を忘れていたのかもしれない。だからこそ、冷めない内に珈琲を飲む。そう心の中で呟きながら、今日も行きつけの店に入り珈琲の香りを堪能する。
キートン
キートン