官能動
断崖絶壁を愛してしまったんだ。
一面の星、薄暗い空、虫の集る街灯、今、踏みしめている地面。あれもこれもこの僕はなびかない。僕の心にあるのは、君の、耳を当てればすぐにでも聞こえてきそうな鼓動を鳴らすその胸。
躍起になって君のその心を打ち鳴らせば、どう表情を変えるのだろう。風に吹かれ髪を気にする君は、少しは頰を赤らめるのだろうか。暑いと言ってシャツで飛び出してきたその姿は、まるでミケランジェロによるサン・ピエトロのピエタにも見てとれるほどに華々しい。
人一人とすれ違わない田舎道を、初々しく手も繋がず二人して歩幅を合わせた。目が合うたび首を傾げる君は、どうにも色気を隠せないらしい。
五つの姓を愛せるほどに器用ではない。それでも、君だけに溺れるには十分だと思う。
「どうしたの?さっきから」
痺れを切らした君の流し目は官能的で、不可抗力だ。
思いを飲み込んで、誤魔化す。そうやって僕は自販機を指差した。疑問符を浮かべながらも、君は飲み物を手渡されひと思いに大きくそれを口にした。真夜中の寝る前ですら完璧な容姿を保っている。きっとそれは努力と才能なんだと思う。
この街灯も少ない田舎だからこそ味わえる状況に、心底感謝した。そして、勇気を振り絞った自分を褒めた。
小さな君を今すぐにでも抱きしめたい。眠そうな君は、無理にでもついてきてくれて随分と可愛かった。
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2023/10/13 17:02
宮浦 透 Miyaura Toru
みやうらとおるです。小説書いてます。興味を持ってくれた方はアルファポリスや公式LINEにて他の作品も見れます。