蛇を飼っている

 聖書に登場する蛇は、イブをそそのかし、りんごを食べさせた。この蛇がおそらく世界最古の詐欺師であろう。その蛇が今私の目の前にいる。  それは三十分ほど前のこと。マンションの隣室で暮らしている若い夫婦からりんごをいただいたのだ。友人の農家から送ってもらったのだがあんまり量が多いから、とのことで分けて配っているらしい。  それで、りんごを貰ったまでは良かったのだが、この目の前の白蛇が問題なのである。白い蛇が突如部屋の中に現れたのである。心底驚いた。都内のマンションで蛇が現れるとは思ってもいなかったからである。しかも三階に、である。しかし、蛇は現れた。 「そのりんご、喰わない方が身のためだぜ」  恐らくではあるが、蛇が低いダミ声でそういった。蛇が話したのである。それはそれは驚いた。三階に蛇が出ただけでも悶絶ものなのに、その蛇が喋るというのだ。 「私は世界最古の詐欺師だからな。騙そうとしている人間のことはお見通しなのさ」  立て続けに喋る蛇を見て私は呆然とした。  人間は未知の何かと出会ったとき恐怖を感じるというが、私には分からなかった。それは私が人間ではないのか、その定説が嘘なのかは分からない。ただ一つ言えることは、その蛇は怖くなかったということだ。だから私は返事をしてしまった、会話ができると思って。 「あなたは誰なの」  私がそう質問すると蛇は嬉しそうにこちらを向いた。いや、初めからこちらを向いていたわけだが、改めて目が合ったように感じた。
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色々書いています。