染め物屋『涙』店主の実験手帖

染め物屋『涙』店主の実験手帖
悲しい涙に生成りの布の切れ端を浸すと、それは美しい夜の闇の色に染まった。後は乾くのを待つだけだが、悲しい涙はすぐには乾かない。少しでも早く乾かそうと、太陽の下で風に当てようものなら瞬く間に散り散りになって霧散してしまった。日陰でも同じ。夜風に当てても夜の中に溶けて消えてしまった。  布を上手く乾かすには、ジャムの空き瓶を使うのが良い。しっかりと蓋をして布を入れて月の光がしっかりと当たるように瓶を逆さまにしておく。すると、たった一晩で、すっかり乾いてしまっている。
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