負け犬理論

負け犬理論
 「つまるところ、『僕』は負け犬なのだ。  おぞましい借金取りから逃げている臆病者なのである。  その借金取りの名前は『ツケ』というらしい。彼は右手に『モシ』という仲間たちを分別する秤を常に握っており、また反対側の手には、どんな刃を用いても断ち切れなさそうな鎖を巻き付けているのである。鎖の先にいるのは他でもない『ミライ』という者であり、聞くところによるとそれは『僕』であるらしい。  借金取りは朝夕問わず『僕』追いかけ回し、人の言葉とはとても思えないような支離滅裂な言葉を発する。それがうるさくてたまらない。  だが、僕の友人たるA氏はそんなものは聞こえない、と言うし、またS氏に至ってはそもそも借金取りという存在を知らないらしい。  かく言う『僕』もあんなに恐ろしくってたまらない借金取りの顔を見たことがない。いや、正確には知らないのだ。ヤツの顔は黒い“もや”で覆われており、何かが蠢いているとしかわからない。  僕はそんなヤツに日々追われている。
やなぎ
やなぎ
何ぞ物語を楽しまんや (どうして物語を面白がらないのだろうか、いや、面白がるはずだ)