ちょっと待ってよ、アンジー

ちょっと待ってよ、アンジー
今日は所用で相模大野へ。大学時代に使っていた小田急線。なんか感傷にでも浸ったりするのかな?とワクワクもするが、当時の電車の記憶で行くと役2時間半掛かる通学の1時間40分ずっと乗りっぱなしだったこと、その1時間40分を睡眠に使っていたこと以外の記憶がない。大学時代にそれこそ所謂ロマンス♡や青春☆みたいなものも勿論あったが、その中に「小田急線」の文字は入っていない。ごめんよ。小田急線。小田急線だって、好きで入って来ない訳じゃない。私が入れてやれなかったのだ。あの頃の自分に言ってやりたい。全て大事に生きなさいと。ただ、今日の私は違う。必死に脳を回転させ、記憶の隅々までを必死になって探す。結果として何も出て来ず、過ぎゆく景色を背に電車にただ揺られていた。そう言えば、当時仲の良かった奴らの自分を含めた5人中3人が学校にほど近い寮だった。あと1人はどこだったか思い出せないが、毛頭、部活で私だけ、講義が終われば別校舎に移動だったし、部活のメンバーの多くが逆側の電車に乗るので、本当にマジで何もなかった。「悲しい」よりも先に何だか笑ってしまったが、それも人生かなと。 そんなこんなで相模大野駅。スケジュールよりも早目に到着し、向かうは「カフェ アンジー」。「相模大野スペース喫茶店」でググると、チェーン店が並ぶ中上の方にぱっと出てくる。「アンジー」。片仮名のたった4文字の羅列だが、自分の名前がよもや「ダニエル、通称ダン」になったかの様な気分に確かに心が踊った。相模大野駅南口から徒歩1分。目に飛び込んでくるのは喫茶店の看板よりも隣の建物の看板。一瞬、迷ったが心落ち着かせて、それこそ「ダン」だけにダンダンと看板に焦点を合わせていく。 「ちょっと待ってよ、アンジー」 やっぱりそんな台詞を言いたくなる店名にワクワクしながら入店。空いてる席に自由に座って良かったらしく、分からずにモジモジしている私を「新参者」と言わんばかりに「はぁ」と視線をそらし、奥に去っていく女性の真っ赤な口紅が印象的だった。ただ、その一瞬で一気に映画の世界に溶け込んだ様な気分になったのは恐らく、整理されてる訳でも、綺麗を売りにしている訳でもない店内の雰囲気もあってだろう。注文は自分からカウンターに行くと知ったのは、馴染みの客の行動を見ての事だった。いそいそと奥のカウンターへ行き、アイスコーヒーを注文。すぐ出て来たアイスコーヒーのドリンクグラスに取っ手が付いたものであるのも視界をセピアにする。 入って程なくした18:00。店内のBGMと店内の電気が消え、元々あったテーブルライトの明かりが強く感じる。外から聞こえる車の音が耳に入ってくる。こんなに車の速さをハッキリと感じたのは久し振りだ。それほど空想の世界に溶け込みきった少し後にノイズが聞こえ、しばらくするとジャパニーズジャズが流れ始める。時間の流れと音楽に身体を預けていると先程の女性と目が合った。「ハァイ!アンジー」と眉毛と目で会話を始めたい衝動と闘う私を尻目に彼女は後ろの席に座った。アンジーはアンジーでは無く、先程この店の流儀を背中で教えてくれた馴染み客の連れだった。 アンジー。空想が幻を生んで、君を連れ去ってしまうところだったよ。
“Y”
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喫茶店を巡りながらエッセイを書いてます。 文字をこねくり回して言葉にしてますので、宜しくお願い致します!