入れ替わり プロローグ
一斉に音を立てながら貫いてくる水、ドアの向こうで笑う声、ポタポタとハサミで乱暴に切られた髪から垂れる水の音、中学校3年間ずっと虐められてきたからもう慣れた。そして、「あと片付けよろしくね〜」と言い去っていくスリッパが音。またか…。最初の頃は誰かが助けてくれるんじゃないかと期待していた。でも、親も、先生も、同じクラスの人も見て見ぬふり。みんな面倒なことに首を突っ込みたくないから。トイレから出て、教室に戻る。今、濡れた制服で帰るには目立ちすぎる。手提げバックを開けた瞬間目に映ったのはボロボロに切られた体育服。絵の具とかペンとかで書くなら頑張ればまだ落ちるかもしれないけど、切られたら直せない。新しく買わないとな…と思いつつ、着替えることも出来ないので濡れたまま帰ることにした。せめて雨が降ってないかなと思い、窓の外を見た。曇っている。あともう少しで降りそうだから少し待とうかなとも思ったけど、時計を見ると6時20分。7時を過ぎると珠姫さんに殴られる。4歳の時にお母さんが亡くなってからお父さんと再婚した珠姫さん。ずっとお父さんに構っていて、私のことに気にかけてくれない。まあ、きにしてほしくないけど。お義母さんと呼ぶと嫌な顔をしてくる。荷物をまとめて、教室から出る。ノロノロと歩きながら靴箱まで向かう。まだ運動部は部活をしているけど、帰宅部は帰っていてもおかしくない時間だ。靴を履いてドアから出る。正門を通り過ぎたくらいに、前から来たおばあさんがびっくりした顔をしてみている。
「あんた、どうして全身濡れてるの?」
と怪訝な顔をして聞いてきた。
「あ…これですか?係の仕事で花壇の雑草を抜いていたら同じ係の男の子が水やりをしていて、間違えてホースをこっちに向けてきたんです。そしたら、全身にかかってしまって…着替えも持ってなかったので…このままなんです」
そう説明すると、おばあさんは
「そういうことだったのね、風邪をひかないように気をつけてね」
と優しく言って役得のした顔をしながら去っていった。
「なんでこれで信じるんだよ」
そう聞こえないように小さく言った。
帰る途中に信号のある横断歩道がある。国道が近くて、車の通りが激しい。そのため、そこの信号は赤の時間が長い。ノロノロと歩いて近寄り、青を待った。先に小学校2、3年生ぐらいのふたりの男の子が話しながら待っていた。
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カテゴリー: ミステリー
投稿日時: 2023/2/12 6:16
最終編集日時: 2023/2/23 8:05
あめ
趣味範囲で気楽にやっていこうと思います。
好きな小説家⇒汐見 夏江、宇山 佳佑、村崎 羯諦など