天使の骨 3

天使の骨 3
 これは夢か。僕はひび割れた石廊の上に立っていた。周りを見渡すと無限に続く枯れた大地と、抜けるような青空があるだけだった。石廊はずっと先へ伸び、終着点らしき場所には黄色に輝く光球が見えた。僕は裸足だった。衣服も襤褸切れに変わっていた。喉が渇いていた。青空の青を構成している色彩の一つ一つが、石廊と大地を構成している小石や砂塵の一粒一粒が、全て同等の存在感を主張していた。目の奥が焼けるような熱を持っていた。僕は両目を手で覆い、その場にせくぐまった。あの光球は何だ。この石廊は何だ。青空や大地の存在がこうも激しいのは何なんだ。目の熱が痛みを伴い始めた。目蓋を手の平で強く擦った。痛みは少しずつ、だが確かに、その強度を増していく。あぁ、痛い…。僕は恐怖した。増幅していったさきの、最大の痛みに。目蓋に爪を立てた。そして何回も掻き毟った。傷から血が溢れた。爪の間に抉れた肉が詰まった。やがて目蓋は躰から千切れた。僕は両目が閉じられなくなった。そのとき、前方から風を感じた。柔らかく温かみのある流れだった。僕は顔を上げた。あれは…。  天使だ。天使が石廊をこちらに向かって歩いてきている。 「おはよう」  目の前の光の明るさに思わず僕は顔をそむけた。傍らに叔父が立っていた。自分の部屋じゃない。上体を起こそうとして、首に嵌められた鉄輪が喉に食い込み反射的に咳をした。身動きが取れない。手首や足首も固定されているようだ。僕は躰を無茶苦茶に動かした。  「まあまあ、そんな暴れるんじゃない。どれだけ抗おうと拘束は解けないよ。彼がそう言っている。それとこれから行われることを、君は逃れることができない。これもそう彼が言っているんだ」  叔父は焦点の定まらない不気味な表情で囁くように言った。  「叔父さん、これは一体どういうことなんですっ。説明してください」  「声を荒らげるんじゃないよ。君は何も心配する必要はない。と、言っても納得できないだろうから、質問をしなさい。それに答える」  「どうして僕は拘束されているんです」
山口夏人(やまぐちなつひと)
山口夏人(やまぐちなつひと)
好きな作品 「K君の昇天」梶井基次郎 「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」三島由紀夫 「狐媚記」澁澤龍彦 「阿修羅花伝」赤江瀑 「芽むしり仔撃ち」大江健三郎 「ぬばたまの」須永朝彦 「火星植物園」中井英夫 「半島を出よ」村上龍 「トビアス」山尾悠子 「獣の奏者」上橋菜穂子 「有頂天家族」森見登美彦 「宝石の国」市川春子 2005年6月11日生 ある文学賞に応募したけど、箸にも棒にもかからなかった作品を挙げてます。