お茶漬けでもどうですか?
ここは京都の祇園。この街の一角に、地元の人には愛され観光客にも人気の、とある老舗の料亭があった。
その店の女将はこの道三十年の仕事一筋の人であり、今まで幾人ものお客様を相手にしてきた大ベテランだ。
店にやって来る地元の人たちは、皆口を揃えて「女将はいるかい?」と尋ねるほど有名な人だった。
そんな名物女将には、とっておきのとある言葉があった。
それは、お茶漬けでもどうですか? だ。
この言葉は『そろそろお帰りください』という意味を、まったく別の言葉で表して伝えるという、相手を思いやる京都ならではの独特の言葉だ。
意味を知っている人であれば『いや、お構いなく。失礼させていただきますよ』と返して退店する。
だがこの女将の凄いところは、意味を知らない人であってもお客様になんの不満も感じさせず、退店させるところにあった。
世の中の酸いも甘いも知った女将が放つ、包み込まれるような独特な雰囲気。そして聞く人を不思議と心地よい気分にさせる、絶妙な声音があるからこそなせるものだ。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/1/20 14:48
ペガサス
はじめまして!
将来ショートショート作家を目指して活動しています!
ぜひ読んでいただきたいですし、皆様に面白い作品を届けたいので、至らぬところがあればいろいろ教えてください