誰か

 実は雪だるまなんて作ったことない。秋田出身なのに周りはみんなヤンキーばっかりだったせいで思うようにはしゃげなかった。同世代が当然のように高校を中退していく中で冴えない脳みそを振り絞って東京の大学に合格した。友だちはいなかったけれど、東京にいけば全てが変わると思っていた。合格した日の夜、コンビニで「ピースとハイライトをください」って言ったら2種類出てきて焦った。サザンの影響で初めてのたばこはピースとハイライトにしようって決めていたから。でも2つ出てくるなんて聞いてない。ひどいよサザン。結局ハイライトに火を点けて1人祝煙?をあげた。これからサザンのライブにも何度も行けるって信じてた。雪道はすぐに投げたヤニカスを呑んで黒くなった。  結局今になってもサザンのライブには行ってない。うだつの上がらない生活を続け気づいたら就職戦線で途方に暮れていた。親には今年は帰らないと連絡したっきりだ。電話もしていない。サークルの引退ライブに出るかまだ迷ってる。もう2ヶ月ギターを触っていない。昨日の面接が通っていたらいいなと思う。けっこう面接官のおばちゃん俺のこと気に入ってそうだった。  ぼさぼさ頭のままベランダで煙草を吸う。もう13時半であることにイライラする。昨日から雪が降り続いていて肌寒い。静かだ。アパートと公道の境界線にちんまりと雪だるまが作ってある。 「そうやってかわいげだけで生きていたいよ」  言ってみたら沈黙が深すぎて恥ずい。ピロリロと携帯が鳴った。開いたら昨日の面接のお祈りメールだった。うざい。もうとにかくイライラしてNHKでも襲っちゃおうかと訳の分からないことを一瞬考えた。で次の瞬間には雪だるまに向かってヤニカスを投げていた。大分手前に落ちたそれは東京の雪上ではいつまでもそのまま残っていて、その後数日にわたっておれの良心を咎め続けた。
いわごん
いわごん