我よりも人を、偽善よりも正義を

夕日に照らされ、紅く染まる海は輝いていてとても美しい。 夕日に照らされ、紅く染まる空も幻想的で美しい。 そしてまた、紅く染まるヒトも美しいと、僕は心の底から思う。 ギシリ、と音を立てて玄関の戸を開ける。 部屋は相変わらず物が散乱していて汚い。潔癖症でもない僕にとってそんなことは気にも留めなかった。寝ることができるのならそれでいい、そう思っていた。 ぐちゃぐちゃなシーツを下に横になり、後頭部で腕を組んで、目を閉じる。やがてあの時の光景が映し出された。『僕』という存在が生まれてしまった、あの日のこと───。 数時間程した頃だろうか、奥深くに仕舞われていた意識が帰ってきた。部屋を出ようとも考えたが、特段やる事もないのでそのまま寝ることにした。なんなら、このまま命を絶っても────いや、やるなら誰もいないところだろう。誰もいないところで安らかに眠るのだ。その方が処理も面倒じゃない、そうだ、そうしよう。 …………と、いつも考えるが、実行にまでは至らない。面倒なのだ。家を出て、誰もいないであろう場所を探して。そうするだけで既に疲れて、最後の段階にまで気力が持たない。そして、そのまま眠ってしまうのだ。寝るというのは非常に楽だ。体を動かさないし、誰とも話さない。ましてや見る事もない。僕が唯一好きだと思える事である。
吸-Sui
吸-Sui
オリジナル『人形は感情を持つ』連載中