【第10回N-1グランプリ】   「 あ

【第10回N-1グランプリ】   「 あ
冬の体育館は、誰もいないときだけ息をしている。 そう僕は思っていた。 放課後体育館の戸締まりをするのは、三年になってから僕の役目だった。 部活が終わると、最後に残ったボールを倉庫へ戻し、モップをかけ、窓を閉める。 それから、ステージの脇にある小さな時計を確認する。 十七時四十三分。 毎日、ほとんど変わらない。 冬になると、その時間にはもう外が暗い。 体育館の窓は黒い鏡みたいになって、僕の姿がぼんやり映る。 その日も、いつものようにモップをかけていた。
叶夢 衣緒。/海月様の猫
叶夢 衣緒。/海月様の猫
綺麗事が救いにならない夜の話。 正しさに置いていかれた感情と、 救われなかった青春の残骸。 優しい言葉ほど、いちばん痛い。 2023年 2月27日start 3月3日初投稿