条件付き物件

─このアパートで暮らすにあたって、一つだけ条件があります。その条件が何かと言うと、「僕らを不快にさせないこと」です。ただそれだけ、簡単でしょう?─ 何の変哲もないアパートの一室に、私は入居した。挨拶も一通り済ませると、残っているのは中身の詰まったダンボールだけになり、無事に引越しを済ませられたのだと実感した。 気持ちのいい朝日がこの一室を照らしている。 しかし、窓から入る日光は、なんの遮りもなくそこにあり、金属製のフレームが何かを訴えるようにこちらを見ている。ぐっと両腕を上げて伸びをして、流石にそろそろ整理をしようと一つずつ箱を動かしていく。すると、視界の端に黒い何かが見切れたような気がした。そちらの方に恐る恐る近づき耳を立てると、何やらカサカサと嫌な音がする。思い切ってダンボールをどかすと、そこには何もいなかった。 嫌な汗が首筋を伝った。 そこからの私は早かった。手早くダンボール内の家具や私物を取り出し、室内のあるべき場所へと誘った。とうとう片付ける荷物も無くなり、注意深く部屋全体を見渡すが、奴は見当たらない。ここまでして姿ひとつ視界に入らないというのは、流石にありえないだろう。きっと、もう窓や玄関から外へと逃げたのだ。 なんだかんだで綺麗に整頓された室内を見て、一息つく。黄金色に染まった窓とフレームにはカーテンがかけられ、満足気にその存在を示している。今度こそ無事に引越しが終わったのだと実感した。そうしてほっとしたのも束の間で、思い立ったかのように立ち上がると、鍵と財布を手に取った。 「一応、あれを買っておこう」 玄関を出て、階段を下りる。その時、ふと駐輪場が目に入った。少し年季の入った支柱には錆が浮いていて、いずれもよく使われているであろう自転車達が整然と並んでいる。しかしよく見ると、一台だけそれを乱すように停められている自転車がある。マナーの悪い人も居るものだと横目でそれを流して、私は近場のスーパーへと歩みを進める。
じゃらねっこ
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。 毎日投稿始めます。