ゆるしてと燦々

ゆるしてと燦々
さざめく夜路の端で生きた、ひつじがひとつ鳴く。うれしいような淋しいような、音を立てぬ夜。空気はぴんと張り、けれどなんら居心地の悪さはなく、それぞれがそれぞれを生きるせいせいとした孤立した夜。 個々が自由に想うことで空は蒼く澄む。近かった空は望郷に広がる。目に見えないものたちがはらはらと散り、そしてわたしの住処になる。 一昨日、犬が消えた。嫌いではなかったけれど、座る時に後脚がカエルのように引き曲がるのが好きになれなかった、犬。 犬はわたしを見ると、はにかんで笑った。こちらが恥ずかしくなるほど、真摯な瞳をたたえて。 犬は笑う。もしもわたしが、あのカエルの脚を好きになれていたら、結果は変わっていたかしら。愛せないものでも自分のものとして受け入れていたら、どこまでも行けていたかしら。強い風が吹く。 眼を覚さないでといったのは君だった。そのままでいいといったのもきみだった。たくさんの君が代を越す。遠く白く霞んだ山脈。それをなお超えて、わたしから遠ざかる、過去の犬たち。それがそこなうことだとは、思えなかった。
公文
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