空底(からそこ)の砂時計

 彼女の部屋には、古い砂時計がひとつあった。  底が欠けている。  誰がどう見ても「壊れている」としか思えないそれを、彼女は大切に棚の上へ飾っていた。  砂は、落ち続けている。  止まることなく、流れ落ちて、下にたまることはない。  それなのに、彼女はその砂の流れを、毎晩じっと見つめていた。  「どうして、そんなもの見てるの?」と友人に聞かれたとき、彼女は少し笑って言った。  「うまく言えないけど、安心するの。落ちていくのに、なくならないから」
三秋 うらら
三秋 うらら