桜蝋流し

桜蝋流し
ぼんやりと花明かりが見える。 それはあけぼのの中。 霧で届ききらぬ日の光。 ふと誰かの後ろ姿を見た気がした。 「もし、そこのお方。お待ちくださいませ」 まだこの時刻では危のうございます、と言いかけた。 その方はふっと口角を上げて、 指を唇の上に置いた。 風が吹き、濃霧を連れてくる。 「お待ちになって…」
かさね
かさね
スタジオ「かさね」 日常のすきまに入れるほどの小さなお話。