光の記憶

光の記憶
その日、夕暮れ時に店を訪れた老婆を、遥は見たことがなかった。 商店街の突き当たりにある「クラタフォトスタジオ」は、秋の終わりの斜光を浴びて、どこか寂しげに佇んでいる。褪せた看板の文字は、父が筆で書いたものだ。両隣の店舗はすでにシャッターが下りたまま。通りを行く若者たちは、スマートフォンを片手に笑い合いながら、この古い店の前を素通りしていく。 ガラス戸の向こうで、倉田遥はカウンターを拭いていた。三十四歳。父から継いだこの店で、もう十年近く働いている。今日も証明写真の客が一人来ただけだった。あと半年もつだろうか——帳簿を閉じるたび、そんな計算をしている自分がいる。 「すみません、まだ開いてますか」 控えめな声に振り返ると、小柄な老婆が入口に立っていた。七十代、いや八十代だろうか。深い皺が刻まれた顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいる。手には古びた布の包みを抱えていた。
とまとまと
とまとまと