ハロウィンナイト

ハロウィンナイト
「トリック・オア・トリート! お菓子にする? イタズラにする?」  部屋に入ってきた妻がそう言って僕にパイの乗った皿を差し出した。食欲をそそる香りに思わずお腹がなる。 「普通はしてもらうほうが聞くんだよ」  恥ずかしさを誤魔化すようにそう言って、すこし冷めてしまったパンプキンパイを頬張る。それは甘くて、優しくて、夕食を抜いていた僕のお腹を十分に膨らませてくれた。 「もう終わりそう?」  待ちくたびれたと僕の首に腕を絡み付かせる妻。目の前で、普段着とは呼べない薄さの袖がひらひらと揺れる。魔女のコスプレにしては随分と色っぽい。  あからさまな誘惑に、仕事モードはあっさりと消し飛んだ。僕のせいじゃ、ないからね。 「君が風邪をひいたら困るから、あっためてあげるよ」  就業時刻を遠に過ぎているにも関わらず、一向に終わらない作業に飽き飽きとしていたところ。後ろを向いて妻を抱き上げる。 「せっかくおやつを貰ったんだから、お礼はイタズラでいいかな?」
白水縁
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