沈まぬ月

雨が降っていた。 傘は持っていたけど、ささなかった。 空から落ちてくる水の粒が、頬を伝う涙を隠してくれるような気がして ライブハウスの裏口。 誰もいない、鉄扉の前。 まだ、彼は中にいる。 あの、騒がしいステージの光の中に。 私は今日、振られるために来た。
天野雪
天野雪
創作