巨大な足跡
俺は長い洞窟を慎重に、かつ足早に進んでいく。太陽の光も届かず真っ暗で、ランタンの明かりだけが頼りだ。
俺は興奮していた。それは、今、自分が、立ち入り禁止の場所にいるからだけではない。ずっと受け継がれてきた伝説、そう、この洞窟を抜けた先にいる巨人のことを想像するだけで胸が高鳴るのだ。
俺たち人間が洞穴で暮らし始めて何百年も経つ。小さい頃からそう聞かされてきたが、実際は分からない。天井からわずかに漏れる太陽光を頼りに生き、岩に生えた苔を食べて暮らす。それで何の不自由もない生活が続いていた。しかし、一つだけ俺には気になることがあった。それは、絶対に踏み入れてはいけないと言われてきた通路、その先に何があるのかということだ。大人たちはただ崩れそうで危険だから入ってはいけないと言っている。しかし、俺は、たまたま爺さんたちの噂話を聞いてしまったのだ。洞窟を抜けた先に、巨人がいることを。
入りくねっている道の先、ほのかに明るくなっていた。もしかして出口だろうか。俺は歩くペースを速める。
やがて洞窟が途切れ、そこで一気に視界が開けた。そこには背の高い草が一面に生えていた。岩場に生える植物とは桁違いの大きさだ。そして、見上げると、草の隙間から青空が見える。それは普段、岩の割れ目から見える空とは違い、どこまでも広がっているのだ。初めて見る外の世界に、俺の体は感動に包まれ、今にも叫び出しそうだった。
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カテゴリー: SF
投稿日時: 2021/9/21 1:01
アズマ
心に響く掌編をお届けします。
エブリスタ
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