第8回N 1 “運命”

第8回N 1 “運命”
夕方の校庭は、夏の匂いをまとっていた。部活の声が遠くで弾け、風が草を揺らす音が教室まで届く。 僕――高瀬悠斗は、開け放った窓辺に立ち、その音を聞いていた。 教室にはもうひとりだけ残っていた。 幼馴染の宮良咲也。 女の子みたいに顔立ちが整っていて、声も柔らかくて、困ったように笑うのがクセ。 昔からずっと一緒で、家も隣。小学校も中学も高校も同じだった。 でも少し前から、咲也は学校にあまり来られなくなっていた。今日も保健室帰りに寄っただけだ。 「悠斗、まだ帰らないの?」 「咲也は?」 咲也は笑う。
叶夢 衣緒。/海月様の猫
叶夢 衣緒。/海月様の猫
綺麗事が救いにならない夜の話。 正しさに置いていかれた感情と、 救われなかった青春の残骸。 優しい言葉ほど、いちばん痛い。 2023年 2月27日start 3月3日初投稿