面忘れ

面忘れ
 ある日の授業中、ずっと感じていた違和感の正体に気がついた。   クラスの誰かが足りないのだ。  だけど、どんなに考えてみても、足りないのが誰なのか、そいつがどんな奴だったのか、まるで思い出せない。  休み時間に、前の席の友人に話してみたら、彼もまったく同じだと言う。  二人して記憶の片隅に残る断片を必死に寄せ集めてみたが、結果は変わらなかった。 「なんにせよ、影の薄い奴だよな」  諦めた俺は、そう言って椅子にもたれて笑ったが、期待した友人からの返答がない。  見ると、彼はいつの間にか能面の様な表情で、黙って俺を見つめていた。  途端に、不気味な悪寒が背筋を這い上がるのを感じる。  思わず「なんだよ」と口走った俺に、友人は抑揚の欠けた声で、しかし確かに、はっきりとこう言ったのだ。
泥からす
泥からす
短くて、変な小説を書きます。ノンジャンルです。