牡羊教会

父が離婚をし、街を離れたころから、我が家の懐具合はみるみる心許なくなった。父は仕事に追われ、家に帰れない日が増えた。私を育てる余裕がなかったのだろう。ある日とうとう、私を教会に預けると告げた。  私は、そういうものなのだと、妙に素直に受け入れてしまった。  教会には六人の子供がいた。私が一番年下で六歳、一番上の子が十二歳。けれど神父は、私たちは「皆、同期なのだ」と語った。その言葉が、どうにも胡散くさく思えてならなかった。  食卓では、毎朝決まった儀式を行い、感謝を述べ、神の祝福などというものを唱えてから食事をする。もちろん、私は言われるまま、口を動かしていたが、神の救いとやらには毛ほどの関心も持てなかった。  その生活の中で、一人だけ親しくなった子がいる。メイという少女だ。彼女は、神様という存在を、心の底から信じ切っていた。  聞けば、彼女の父は早くに亡くなり、母は重い病で入院しているのだそうだ。それでもメイは、ほとんど明るく笑っていた。  「神様がお母さんを元気にしてくれるの」  そう言う彼女の声は、悲壮というより、むしろ幸福の予告のように響いた。私は、その無垢さに、何とも言えぬ眩しさを覚えた。  ある日、テレビのニュースで事件が報じられていた。被害者は死亡。加害者の動機は、「死にたかったが一人では死にたくなかったから」という、どうにもやりきれぬ理由だった。  その画面を見て、最年長の子がぽつりと言った。
宮野浜
宮野浜