奪い去ってくれ

始まりは、ハインラインの『夏への扉』だった。 孤高な猫、護民官ペトロニウスに可愛らしさを覚え、主人公ダンを襲った不幸に憤りを覚えた。 その時の感情が、今の僕になりこれからの僕になるだと気づいたのは、素晴らしく爽快な結末を迎えてしばらく経った現在の事だ。 その次に興味を持ったのはディック作品だった。 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』や『ユービック』が中学の頃愛読書だった。特に『ユービック』が僕に与えた衝撃は計り知れない。人に有無を言わせぬ面白さが、僕の心を大波で攫った。読書というある種の地獄に僕が足を踏み入れたのは、確かにこの時なのだ。 物語は、罠だ。僕らの心を掴んで、思考を独占する。 物語は確かに言うのだ。僕らの心を甘い蜜で誘い、肉を喰らい、それでも依存する僕らの骨をしゃぶるのだ。 ディック作品の面白さを享受しながら、僕はブラッドベリという抒情詩人にも酔いしれていた。 『板チョコ一枚おみやげです』に代表される、抱擁のように温かくて優しい物語も、『十月のゲーム』に代表される、金縛りのように僕を恐怖させる不気味な物語も、全て彼の詩的な表現あっての物なのだ。僕が今こうして、拙いながらも物語を書く事ができているのは、そんな彼の作品を読んできたからなのかもしれない。
ot
ot
初めましての方、よろしければ仲良くしてくださいね