奪い去ってくれ
始まりは、ハインラインの『夏への扉』だった。
孤高な猫、護民官ペトロニウスに可愛らしさを覚え、主人公ダンを襲った不幸に憤りを覚えた。
その時の感情が、今の僕になりこれからの僕になるだと気づいたのは、素晴らしく爽快な結末を迎えてしばらく経った現在の事だ。
その次に興味を持ったのはディック作品だった。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』や『ユービック』が中学の頃愛読書だった。特に『ユービック』が僕に与えた衝撃は計り知れない。人に有無を言わせぬ面白さが、僕の心を大波で攫った。読書というある種の地獄に僕が足を踏み入れたのは、確かにこの時なのだ。
物語は、罠だ。僕らの心を掴んで、思考を独占する。
物語は確かに言うのだ。僕らの心を甘い蜜で誘い、肉を喰らい、それでも依存する僕らの骨をしゃぶるのだ。
ディック作品の面白さを享受しながら、僕はブラッドベリという抒情詩人にも酔いしれていた。
『板チョコ一枚おみやげです』に代表される、抱擁のように温かくて優しい物語も、『十月のゲーム』に代表される、金縛りのように僕を恐怖させる不気味な物語も、全て彼の詩的な表現あっての物なのだ。僕が今こうして、拙いながらも物語を書く事ができているのは、そんな彼の作品を読んできたからなのかもしれない。
0
閲覧数: 195
文字数: 745
カテゴリー: 日記・エッセー
投稿日時: 2025/3/27 2:54
ot
初めましての方、よろしければ仲良くしてくださいね