夏フェス

夏フェス
地元で毎年行われる夏フェス。各地から有名なバンドが集まっていたこのフェスは、最近ではほんの数組しかプロチームはやって来ない。街の財政が危うくなってきてしまったからだ。物価が上がっている今の日本では、こんな辺鄙な地に気を遣ってはくれない。  この夏フェスは割と名が知れていたのだ。各地から沢山の人々が来る。そうすると屋台の売り上げが上がる。街としての収益も上がる。このフェスを無くすのは実に惜しい…そこで、役場の人間の代案が「一般人の飛び入り参加制度」だった。プロのバンドチームの発表が始まる前の余興として地元の人間が自分の得意なものを披露する。今ではほぼ、ジジイ供の喉自慢大会となっているが。  そんな訳で今では半分がただの地元の宴会のようになっている。ちなみに俺は飛び入り参加の枠に家の親父とその友人達が出ることになっているので、無理矢理連れ出されたのである。 プラプラと屋台を周りながら、時々バンドの方に目を向けていると、いくつかの舞台のうち、一番奥の方にひっそりと存在しているステージに、ギターを持つ少女が居た。よくよく見ると隣のクラスの女子だった。いつも一人でひっそり本を読んでいる彼女は男子の噂の的である。落ち着いた雰囲気を持つ女子は珍しいのだ。 その、落ち着いて目立たないイメージがついている彼女が、ステージに立ち、歌を歌っているのである(曲はゆるゆるとしたラブソングだったが)。 自然と足がそちらの方に動いていく。妙に惹かれるものがあった。あの子はどんな声で、どんな風に歌うのか、どんな演奏をするのか、近くで見てみたかった。 観客はさほど多くなかった。何故、この素晴らしいプレーに人が集まらないのか甚だ疑問だったが、これを知っているのは自分だけでいいとも思った。 とにかく素晴らしかった。彼女の演奏は。彼女自身が。 初めて、生き生きとしている姿を見た。
川辻憂夜
川辻憂夜
名前変えました。川辻憂夜(ゆうや)です。 感想、ご希望等あればコメントお願いします! 辻村深月さん、綾辻行人さんのファンです。