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音を立てて揺れる鍋を覗き込むと、赤黒く染まった液体が香りを吹かせて居座っている。これみよがしに、レードルを差し込んで時計回りに動かすと、香草の存在を主張しながら人参とベーコンが顔を覗かせる。塩味が効いていて、様々な野菜がざっくばらんと入っているスープが彼は好きだった。 傍にあった手頃な器に盛り付ける。カンバスを多彩に塗りたくりながら、彼が口癖のように「中身よりも外観だ」と言っていたのを思い出す。外観を丁寧にしつらえなければ、誰も中身は見ない。彼の教えだ。 外では蝉が泣いている。エアコンの温度、もう少し下げた方がいいかなと、ろくでもない考えが頭に浮かぶ。でもやっぱり、下げた方が安心だなとか思いながら、スープの椀と木製のスプーンを握って、嬉々としてリビングへ戻る。 彼がいるリビングへ。彼がいて、今もいる作業部屋へ。 椅子に腰を下ろしている彼の背中は小さい。疲れ切っているのか丸まっていて、誰がどう見ても猫背が目立つ。筆先は乾ききっていて、濃厚に抉り取られた赤色の絵の具が、カンバスに着地しつつもこっぴりと固まっていた。 「ご飯だよ」 スープを掬い、余分な液体を器に戻して、彼の唇に持っていく。 乾いた唇に潤いを。
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面白い物を読ませてくれる人が好きです。 noteにもいます。 11.4 ~