コスメカウンターの魔女

コスメカウンターの魔女
 「LGBT」に対する理解が深まっているって、どこの世界線の話なんだろうか。少なくとも僕の生きている世界では、ない。僕は男の子として生きてきたけれど、可愛いお洋服が着たいし、宝石箱のように煌めくコスメを集めたい。でもみんな変な目で見るんだ。僕を中心に、お店の中に空白ができる。でも構わない、薄く涙は込み上げてくるけれど、可愛いものに囲まれる幸せを譲る気はない。  今日も自分の好きなものを身につけて武装する。サマンサのバッグに、is Scolarのワンピース。YOSUKEにしては華奢でシックなレースアップのショートブーツ。街中を歩くと「何あれ」、そんな声が聞こえてくるけど構わない。マスクの下で、エチュードハウスのティントが僕の心を守ってくれる。それでもガラス越しに見える自分の姿に心が揺れる。逃げるようにしてデパートに駆け込んだ。  やめれば良かった。入口に陣取るコスメカウンターに、僕の姿を認めて嘲笑を目に浮かべるBAさん。でも引き返せない。下を向くのも悔しくて、少しだけ視線を落として歩き続けた。いつもみたいに、また涙がせりあがってくる。でもひたすら歩き続ける、目的のショップはないのに。だってたまたま駆け込んだデパートだったから。 「こんにちは」 そう声をかけられて、顔を上げると某有名コスメのカウンターだった。 「新商品が発売されたので試されませんか?」 どうしよう、黙り込んでいるとニコッと笑ってBAさんが小声で耳打ちした。
霜月穂
霜月穂
暇つぶしに読んでいただけると嬉しいです。日記だったり思いついた話だったりを書いていきます