下弦の月のように 下
「もうそろそろ良いでしょう」とクルルが椛の樹を背に一歩を踏み出すと、泥で足を滑らせてしまった。彼が受け止めようと抱き寄せたとき、既にクルルは紅潮していた。そして、ゾッとするほどに熱い。汗が滲み出て服には染みが出来ている。服を脱がそうと襟元に指を掛けたとき、クルルは片手で止めて「すみません」と頭を下げた。
「足元には、気をつけてくださいね。滑りやすいから」
「君、熱があるだろう。蚊に刺されなかったか」
彼が問い詰める。クルルは膝が震えてその場に崩れ落ちた。既に呼吸が乱れて意識が朦朧としている。彼は、ブルブルと震えているクルルを背負ってみた。
「ごめんなさい」そう一言残して、力がさあっと抜けた。エヴァンは一層脚を早めて、翼を広げて家へと向かう。例の研究室まで担ぎ込むと、彼はクルルを寝床に寝せておいた。顔は紅潮し、発汗して呼吸が荒い。胸が脈を刻むように上下して、小刻みに体が震えている。体温計を挿し込んでみると、熱は四十二度だった。此は奇妙だ、とエヴァンが棚を見てみる。様々な注射器から器具までもが並べられている。その中から慎重に注射器を選んで、熱で殺菌した。そして針を血管に差し込む。引いて採血すると、載物硝子に塗抹し、固定して染色した。そうして末梢血塗抹標本を作った後に顕微鏡に設置して接眼レンズから覗き込む。すると、染色された熱帯熱マラリア原虫が明瞭に見える。もしもクルルが原虫等に詳しいのならば薬がある筈だ、と。探しているうちに白い箱の山を見つけた。その箱を開けてみると、抗生物質が大量に詰められている。もしも此処に抗マラリア薬がなければ、街の病院に運ぶしかない。だが、此の国には殆ど病院と呼べる場所がない。廃墟のようになっている。書類を全て引いたり、クルルの作った薬の数々を探しても材料がないので作れない。寝床の上でクルルが呻いた。
「……アッ、アーテスネートだ! 左にありますから、それを此処に」
「此処か」引き出しの中を覗いてみると、新品のアーテスネート注射薬があった。先を弾いて別の注射器で吸い上げると、静脈に刺し込んで注入する。それから水分補給に、と点滴をした。濡らした布で体を冷やし、汗を拭いているとクルルが戯言のように言う。
「先生は、蚊に刺されていませんか」呂律が廻っていない。
「刺されていない」
彼は渇いたような気持ちになって渋々答えた。クルルは可笑しそうに笑って「なら、よかった」と口許を押さえる。それから、疲れたように仰向けになってハアハアと呼吸を荒くしてしまった。彼は眠らずに血液を調べては薬を投与し続けた。輸血の血がないから、とせめて水分補給だけでも頻繁にしようと点滴の袋を替える。そうして一週間も経てば、クルルは立ち歩き出来るようになった。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2026/6/25 6:42
最終編集日時: 2026/6/25 15:14
愛染明王
最近、知識的な要求を満たされたり分かり合えたら喜びが最高値を超えて性欲に直結するのだと気づいた。創作もその一種だと判断した。ゆえに俺が変態化すると創作も細かくなるのでは?という仮説が立てられる。皿うどんが毎日食べたいからいつでもどこでも吸入できる皿うどん作ってほしい