【短編】しめわすれ
よし、準備完了。忘れ物はないな。そう確認して靴を履いてドアを出る。僕は忘れっぽいので、こうしたらいいと同僚からアドバイスされた。うん。ドアも閉めた。ガスの元栓も、水道の蛇口も。クローゼットに金庫の扉も、この家の中全部、これでオッケーなんだ。ちゃんともとに戻しておくものはそうして、前と寸分違わないように。……絶対大丈夫。前は怒られて、上司に切れられたからなぁ。沢山モノの入った鞄を持ちなおした。すると家の中からドタバタと音が聞こえて、玄関のドアが開いた。
「俺を絞めるのを忘れていたようだな」
「あ」
男はそう言って僕の首を絞めてきた。しめ忘れたのを教えてくれて、おかげに僕の分までシめてくてるなんて。
「君、親切だね?」
そう言ってきちんと絞め忘れた分をポッケのナイフで片付けた。やっぱり小指が無いと手に力が入りにくいなと思いながら、男を家の中に押し込む。時間喰ったけど、締切に間に合うかな?証拠隠滅は諦める?まあいいか。生きてたら、危うく男のせいで組織の事が世間にバレてたかもしれない。それに口封じにアブナイ仕打ちを受ける運命だったかもしれないしね。僕みたいに。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2023/7/5 6:22
倚吏
倚吏(より)です よろしくお願いします
受験期を無事終えてゆっくり執筆を再開中。