見ず
彼氏が姿を消してからちょうど一年経った。あの輝く笑顔や嫌になるほど真面目な彼を見捨てたわけじゃない。それでも私は警察を訪ねたり度重なる連絡をしたりしない。そもそも普段から連絡頻度は少なく、一週間返信がないこともあった。しかし、一年も連絡がつかないのはこれが初めてだ。
同棲しよう、と言い出したのは私からだ。二つ離れた年齢は問題ではないが、婚期を逃せないと焦っていたのは年上の私だろう。彼はああとかうんとか、手元の液晶画面を見ながら適当に返事をした。
私は週の半分以上を彼の家で過ごしていたし、実家を出たいと昔から考えていた。彼もよく私のことを泊めてくれた。曖昧な返事でも同棲することに反対ではないと思っていた。本格的な同棲のプランを立てる頃、コンビニに出かけた彼はそのまま帰ってこなかった。
だから私は彼の部屋で一人暮らしをしている。とはいっても部屋に彼のものは未だに残っている。片付けてしまうと彼の痕跡が消えてしまう気がしたが、使ってしまうわけにもいかない。彼の歯ブラシやコップは出て行った時のままで、干してあるタオルでさえそのまま取り込んでもいない。最も手がつけられないのは彼の書斎だ。
彼はずっと読書家であった。読書家というよりも文学マニアやオタクに近く、物語を読むことに加えて書籍を収集する癖も持ち合わせていた。そんな彼のコレクションが詰まった部屋は彼の存在そのものに近かった。
トースターでパンが焼けた音とインターホンの音が同時に鳴る。どちらを先に対応すべきか少し悩んだが、トーストを二枚の皿に置き、バターを冷蔵庫から取り出すことを優先した。そうして準備を終えてから玄関を開ける。
「もうみーちゃん遅いよぉ」
扉の前に立ち、私をみーちゃんと呼ぶのは菜津だ。彼氏ですら私のことをみーちゃんとは呼ばないが、彼の妹である菜津はそう呼ぶ。
「ごめんごめん」
彼と菜津は年子なので私とは三歳差ということになる。それでも年齢の壁を感じることはほとんどなく、むしろ彼よりも仲が良いかもしれない。そして、彼が失踪しその関係はより強固なものとなった。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/12/23 6:29
最終編集日時: 2025/12/28 7:22
K
色々書いています。