そこまでせんでも

こんな夢を見た。二年前に亡くなった弟が私のために、わざわざ再就職先を斡旋してくれたのだ。弟とは私が十五の時に別れて以来音沙汰がなかった。当然訃報が伝えられた時、彼は既に遺骨を残すのみで本人とは対面せずじまいだった。にも関わらず、夢の中の彼は大人の風貌で(何故それと知れたのは、夢であればこそだろう)だらしない兄貴のために奮闘してくれたのだ。 生前弟には世話をしたことこそあれど、世話をかけたことはついぞない。何しろ別れたのが先方がまだ九才くらいの時だ。下手をすれば弟のほうが、こちらの記憶を失っていてもおかしくない、それくらいの幼い年頃だ。 にも関わらず、夢の中の弟は私のために十二分なくらい骨折りをしてくれたのだ。このような状況に出くわすと、何故生きている時に再会しなかったのかその事ばかりが悔やまれる。 ひょっとしたら自分を忘れないでくれという謎かけだったのか。今年の1月に3回忌を迎えながら法要をしなかった薄情な兄を恨んでであろうかと、さまざまな想いが交錯する。大丈夫、忘れてないよと、墓前に報告しようか。
江戸嚴求(ごんぐ)
江戸嚴求(ごんぐ)
ノベルアップ+でエッセイなど発表している、五十路の雑文家です。江戸厳愚から江戸嚴求と改名しました。