庭にマグマができました。⑦

 真っ暗な夜道、街頭と月明かりだけがやけにまぶしかった。そんな中、俺はドラム缶が乗った台車を押し、道を進んでいく。アスファルトの上を車輪がガタガタと音を立てる。通り過ぎる人たちが怪訝な目を向けてきたが、気にしないようにした。  店長の助言通りにネット検索すると、ある町工場がヒットした。そこは家のすぐ近所にあり、仕事帰りに寄ってみると、無料でドラム缶を譲ってくれた。しかも、ドラム缶風呂用の設置具まで作ってくれて、至れり尽くせりだった。正直に言って、最初は全く乗り気ではなかったが、ここまで上手くことが運んだのだから、彼女を喜ばすためにもドラム缶風呂をしてあげようという気になった。もしかしたらこれで彼女の機嫌が良くなり、逆立ちの件も大目に見てくれるかもしれない。そんな淡い希望が胸に浮かんだ。 「わああああぁぁぁん」  家の門をくぐると、庭の方から彼女の泣き叫ぶ声が聞こえた。どうしたんだ。俺は台車とドラム缶をほったらかして、庭へと駆け出した。 「どうしたの?」
アズマ
アズマ
心に響く掌編をお届けします。 エブリスタ https://estar.jp/users/260659295 Twitter @6ECt5zpW27VvxRP