孤独の世界
目の前に広がる、白い雲。広がっては消え、広がっては消えを繰り返す。
白い雲はとても温かかった。だというのに、透明な風は冷たく、その存在を主張するように耳を紅くする。
風は耳だけではなく、心臓も冷たくした。心臓は温かく紅いから、風は居場所を求めてそこに集まる。雲は目の前にしかいかないから、心臓には届かない。ヒューヒューと冷える心臓を温めてほしいのに、顔だけ温めてくるから熱を出したんじゃないかと思ってしまう。
心臓が冷える。心が冷える。雲は白いから、紅いところには行かない。風がそこに巣食うばかり。
そうだ、ならば桃色を当ててみよう。5本に伸びて桃色なら、風が寄ってくるかもしれない。桃色を当ててみる。そこから伝わる音は早歩きをしていた。
音は早歩きをするたびに、そこに巣食う風を余計に集める。耳からも、紅かったはずのそこからも。心は余計に冷えていく。目の前に広がる雲に、上から雨が溢れそうになっていた。どうやら桃色はダメだったらしい。ダメらしいから外したのだが、音は桃色が無くともその存在を主張する。嗚呼、今にも走りそう。
風が吹き、音が走ると、次第に体を抱きしめたくなる。でも自分では足りない。そう、まるでコアラになったようだ。コアラは何かに抱き着くんだ。家には何があるだろう、枕だろうか。枕を抱きしめる。枕は温かいが、何か足りない。そうだ、人は温かい。人の中は紅くて、アレに抱きしめられたら、寒い寒い心臓ごと温めてくれるだろう。
しかしどうしようか、ここには誰もいない。誰もいないのであれば、人もいない。人がいなくては抱きしめてもらえない。
そうだ、考えよう。雲は本物でも、風は結局偽物なんだから。冷たい偽物が作られるなら、温かい偽物も作れるはず。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/1/30 5:34
月影羽
作家志望の学生
好きな作家は芥川龍之介、太宰治、フョードル・D、東真直、夜咄頼麦etc.
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